ウラガナ、がんばる! その9「ウラガナ、がんばった!」



「お嬢さん」
 ジオン公国軍宇宙要塞、ア・バオア・クー――その基地内を歩く、ノー
マルスーツの少女の足を止めたのは、そんな一言だった。
「手帳が落ちましたよ」
「ふぇ?」
 ヘルメットを両手に抱え持っていた少女が振り返ると、そこに笑みを浮か
べて、一人のパイロット・スーツを着た男が立っていた。赤一色に塗られた
スーツは、彼の鍛え抜かれた無駄のない肉体の線をくっきりと浮かばせてい
る。片方の手には自分のヘルメットを、もう一方の手には少女――ウラガ
ナ中尉の私物である手帳が携えられている。
「いやぁ、これがハンカチでなかったのは幸いだったね。もしもハンカチだ
ったら、なんてクラシックなガールハント法だろうと笑われる所だったよ」
 独自の色のスーツはエース・パイロットの証しであるはずだが、鍛え抜か
れた外見とは裏腹に、男の物腰は軽薄そのものである。
「どうもありがとうございますですぅ」
 パイロットの男から手帳を受け取るとウラガナは、ぺこりと頭を下げた。
と、警戒心の欠片もないその態度に、パイロットは調子が狂ったように片眉
を上げた。
「まぁ、いいってことさ。
ところでこの手帳、随分面白い内容じゃないか。――ああ、失礼。拾った
拍子に中を覗いてしまってね」
 だがパイロットは、気を取り直したようにニッと白い歯を見せ、謝罪の代
わりに両手を上げる。それから、手帳を指差して韻を踏むようにテンポよく
口を動かした。
「《青い巨星》ランバ・ラル、《黒い三連星》のガイア、ノリス・パッカー
ド、《白狼》シン・マツナガ……サイド3の子供が見たら泣いて喜ぶぜぇ、
我が軍のエース達のサインが揃い踏みだってな」
「えへへ。色んな人達にお願いして、貰ったんですよぉ」
 にぱにぱと自慢するウラガナ。と、パイロットは自らを指してこう言った。
「どうだい?俺もひとつ、そこに並べさせてくれないかな?」
「……ふぇえ?」
 自分に親指を向けるパイロットを、ウラガナはじっと見ていたが「あ、あ
ぁーっ!貴方、もしかしてぇ……」と、口元を手で覆い隠す。パイロット
は腕を組んで目を閉じ、次の言葉を待った。
「《赤い彗星》!シャア・アズナブル大佐ですねぇっ!」
 どがごっ!
 悠然と壁に寄りかかっていたパイロットは、猛スピードで脳天を壁に激突
させる。
「あ、あのなぁ……っ」
「うわぁぁ、うわぁ〜!こんなスゴイ人にサインしていただけるなんてぇ〜、
ウラガナ大感激ですぅっ!一生の記念ですねぇ!」
「うっ!?」
 指を組んで、嬌声を上げるウラガナの喜びっぷりに、パイロットは反論を
喉に止めざるを得なかった。そこには、完全にジオン随一のエースに対する
感謝を一杯に表す少女の姿があったからだ。
(い、言えん……!今更「人違いです」なんて、俺にはとてもっ!)
「そ、そうかい?俺も有名になったもんだな!はは、ははははは……はぁ」
 心の中で泣きながら、彼は手帳に付いたペンを手に取って、蓋を取る。
 すると。「あ……!待ってくださぁいぃ!」ウラガナが急に声をあげた。
「えっ?」
 ようやく自分の間違いに気付いてくれたのだろうか。
「やっぱり……サインは要らないですぅ」
 ワクワクと期待たっぷりに次の言葉を待っていたパイロットは、ウラガナ
の表情の陰りに、逡巡する。
「えっ?そ、そりゃあまた、どういう」
 三つ編みに眼鏡の少女は、うつむいて、少しだけ黙り――やがて、パイ
ロットに向き直って、何かを告白するように語り始めた。
「そこにいる人達はですねぇ、皆さん戦ってお亡くなりになられてしまった
んですぅ……。とっても縁起が悪いですぅ!だから、だから大佐はこんな
手帳にサインなんてしないでくださいぃ」
 ピクリ。ウラガナの言葉に、パイロットの眼差しが変わる。
「わたし……もうこれ以上、わたしと関わった方が死ぬのは嫌なんですぅ!」
 今まで出会い、そしてもう二度と会えなくなった彼等の事を想い出し。ウ
ラガナは目に涙を滲ませ、懇願するように言い放った。
 ――だが。
「ふざけるな」
「えっ?」
 彼の語気に、ウラガナは思わず顔を見上げた。
 さっきまで軽薄そうに笑っていたパイロットは、口を引き結び、半ば怒り
を孕んだ様にウラガナを見つめていた。パイロットはうって変わった険しい
口調で、説き伏せるように言葉を投げかけた。
「手帳に書いたからそれがなんだってんだ?この手帳が人の命を左右すると
でも言いたいのか?
――舐めるんじゃあないぜ!
いいか?戦って、戦って、如何なる場合でも、例えどんな状況だろうと、自
分が生き残る為のベストを尽くす。それが俺達ジオンのパイロットなんだ。
頼れるのは、己の腕とMS!ただそれだけだ。エースだってんなら尚更さ。
俺はここに名前の載ってる奴と殆ど顔も会わせた事もないが、これだけは、
断言するぜ……こいつ等の中で、今この場でこんな事を言われてサインを
断るような腰抜けはひとりだっていやしないってな!」
「!!」
 一息にパイロットはウラガナへ言い切ると、手帳にすらすらとサインを入
れる。そして手帳をウラガナに差し出した。
「赤い彗星じゃあなくてすまないけどな……だが、俺だって結構捨てたも
んじゃあないと思うぜ?」
 得体の知れない気迫に圧倒されたウラガナが手帳を受け取ると、パイロッ
トは元の軽い笑いを口元に浮かべ、彼女に背を向けた。
 ウラガナは、ふっと彼が抱えていたヘルメットの印を思い出す。赤いライ
ンの、ジグザグにはしった電光の様な紋様を。
 そして。地球の空に光る雷のごとく敵機を撃墜し去るという、ジオンのエ
リート部隊《キマイラ》にその名を轟かせるエース中のエースの名前が、彼
女の脳裏に浮かんだ。
「あ、あのっ!ありがとうございましたぁ!」
 ウラガナが声をかけると、パイロットは振り返らずに、後ろ手ををはため
かせる。
「わたし、頑張りますぅ!――《荒野の迅雷》ジョニー・ライデン少佐ぁっ!」
「違ぃぃぃぃぃぃがぁぁぁぁぁぁぁうっっっ!!」
 《真紅の稲妻》ジョニー・ライデンは振り返ると半泣きで抗議するのだった。


 ア・バオア・クー要塞の戦闘は、何時とも知れず開始された。
 そもそも戦場に於いて、何を以って戦闘の開始とするのであろうか?
 誰かが放った一発の砲撃なのか。それとも、この戦争を開始せんと、誰か
が画策し始めた時からか。
 だが、そんな事を考える者もおらず、暗黒の空間をメガ粒子の熱線が幾条
も絡み合い、鋼鉄に食い込んで爆裂させていく。一分ごとに、一秒ごとに、
十数年、何十年も生きてきた人間の命が、まとめて消え去っていくのである。
「これはなんですかねぇ〜?」
 そんな戦地真っ只中の慌ただしく工兵達が蠢くMS格納庫で。場違いなく
らいのんびりとした声が発せられた。
「……なんだい、アンタ」
「あ、ちょっと、人に向かってアンタなんて言っちゃ駄目ですよぉ?」
 小休止していた整備兵が、いつの間にか隣に立っている少女を見下ろすと、
彼女はやや剥れた様に胸を張った。
「わたし中尉なんですよぉ〜。いちおう貴方より偉いんですからぁ」
「はっは、そりゃ失礼」
 徴兵検査に通るかどうかも怪しいくらい華奢な女性仕官殿に謝罪し、敬礼
を一つしてやる。
「おっきいMSですねぇ〜」
 彼女は、格納庫で整備真っ只中の、上半身だけでも既存のMS以上はあり
そうな機体の姿に感心するように見入っている。整備兵は腕を組んで、自分
達が組み上げた高性能兵器の解説を始めた。
「そりゃあそうですとも!我が軍の威信をかけた、最大最強のMSですから」
「でも、脚のパーツがありませんねぇ。どこかに置いてあるんですかぁ?」
「それが、残念ながら腕の装甲と脚部は間に合わなくて――ですがっ!
脚の代わりに大型スラスターを増設しました!これによって、こいつの性能
は100パーセントとは言わずとも、90パーセントは引き出せると言って
も過言じゃあありませんね。ま、宇宙戦じゃあ元々足なんて必要のない飾り
みたいなもんですから、これで十分いけますよ」
 得意げに断言する整備班の男。
 だが「えぇーっ、そんなのおかしいですよぅ」とウラガナは抗議の声をあげた。
「だってだってぇ、宇宙空間ではAMBACっていうMSの手足を使った姿
勢制御法がとっても大切なんですよぉ。これじゃあ足で蹴ったりして方向転
換もできませんよぅ」
 ぴしっ
 整備兵の顔が引きつった。
「それにそれにぃ、こんな大型のMSだと推進剤が大変ですからぁ、きっと
脚部には燃料タンクも内蔵されてるはずですぅ。それなのにそれを取って、
アンバランスなスラスターを代わりに着けるなんて、すっごく無駄な仕様だと
思うですよぉ。ヘンですぅ。きっとこれじゃあ、80パーセントどころか7
0パーセントも出せるかどうか怪しいもんだと思い……きゃあぁ!?」
 ウラガナは鬼の様な顔でこちらを睨んでいる整備兵に気付くと、弾かれた
ように逃げていった。


 しばらくして一人の士官が、そのMSへと乗り込むために姿を見せる。
「私の機体の整備は済んでいるか?80パーセントの完成度と聞いたが」
 彼は高みからニュータイプ専用に開発されたというMSを見下ろし、呟く。
「80パーセント!?冗談じゃ有りません!現状でジオングの性能は100
パーセント出せます!ええ!出せますったら出せるんですとも!」
 すると、途端に物凄い剣幕で整備兵は彼の言葉を否定した。
「足がついて……」
「あんな物は飾りです!無駄です!『偉い人』にはそれが判らんのですよ!」
「そ、そうか?」
 何やら殺気立つ整備兵のその迫力に、彼は頷かざるを得なかった――。


『中尉!この件は何卒内密に。もし発覚したら私の机どころか、軍事裁判
沙汰になるやも……!』
 プツッ
 ツィマッドの重役から送られた映像メールを途中で閉じて、ウラガナは
コックピットの中で機体のジェネレーターを起動させた。
 あの時、ツィマッドの重役に秘蔵の壺と引き換えにウラガナが投げかけ
た要求――それは自分に一機のMSを回してもらう、という途方もない
注文であった。
 この手で直接、マ・クベの仇を討つ。それこそが、ウラガナの願いだっ
たのだ。
 ツィマッドの重役は、余程壺が欲しかったのだろう。尻込みしていたが、
遂に一機の試作機を、彼女の元へと送り届けてきた。
 《連邦の白い悪魔》を相手に、自分ごときに何ができるというのか?
 そんな自問にすら、返答はできない。
 だが、せめて一矢でも。例え、一かすりでも。
『中尉、発進宜しいですか?』
「はぃぃ!」
 オペレーターの声に合わせて、ウラガナはコックピットのモード・セレ
クターを『カタパルト』へシフト。がっちりと操縦桿を掴み、手足を踏ん
張って、Gに備える。
(マ・クベ様、見ていてくださいぃっ!)
『発進、どうぞ!』
「ウラガナ、出撃しまあああすっ!」
 がく、と圧力が体の前面にのしかかるのをウラガナは覚える。
「っ……くぅ……!」
 押し潰されそうなプレッシャーにしばらく耐え切るとやがて、一気に開
放感に包まれた。無重力の星海に投げ出された感触。
 そして――。
「!?」
 ウラガナは例えようもない悪寒に、レバーを操って方向転換した。
 次の瞬間、ビームの嵐が真空を切り裂いた。
 幾条もの光の砲撃が、ウラガナが出てきたカタパルトを破壊する。
 爆裂の衝撃と恐怖に、なんとか目を閉じるのを堪えたウラガナに、間髪
入れず、悪寒が走った。
「ま、またぁ!?」
 機体を横倒しに捻って、その『悪寒』というか『殺気』というか――
名状し難い物の射線から離脱。真上から放たれたミサイルをすんででかわし、
「ええぇいぃ!」
 感覚の発信源へ、狙いもつけずウラガナは攻撃。
 吸い込まれるように、ビームは一直線に戦闘機を貫いて崩壊させた。
 しかし、砲撃を避けても次の砲撃が、敵を倒してもまた新たな敵が、ひ
っきりなしに飛んで来る。それもひとつだけではない。ふたつ、みっつ、
同時に来る時もある。それも360°全方位から。常に全方位に気を集中
させておかねばならず、休む事など許されないかのようだ。
 だが、今更後悔などはしていない。
 生に未練は無かった。仇を討てるのなら命など惜しくは無い。
 ガンダムさえ、倒せたなら。
「そうですぅ!連邦の白いMSっ!どこですかぁぁぁぁっ!!」
 叫んで、ウラガナは視界を巡らせた。
 ……と。
 目の前に飛び込んで来た、白い機体。――の、残骸。
「ふぇ?」
 上にも。横にも。よく見れば連邦のMSのほとんどが白かった。
 RGM−79、ガンダムを元に設計された、連邦主力量産MSのカラー
はことごとく白であった。
「……えっ?えっ?ええぇぇぇぇ!?」
 ウラガナはコックピットの中で困惑に包まれながら、抗議の声をあげた。
「そんなあぁぁぁっ!どっ、どこにいるんですかぁ〜!?ガンダムぅぅ!?」


 おそらくは、この戦争での最高のニュータイプであろう少年は、その能
力を誰はばかる事無く発揮していた。
 ジオンも新型MSやMA(以前見たことがある物もいる)を惜しげも無
く放出しているようであった。その幾つかの機種は、確実に彼の乗るMS
RX−78ガンダムを陵駕する性能があったに違いない。例えマグネット・
コーテイングを施してあると言ってもだ。
 だが、彼の敵になるような相手は殆ど存在しなかった。
 どんなに高性能なビームライフルがあろうと、どんなに素早く動こうと、
攻撃を察知でき回避運動の先を読める彼の敵では無いのだ。
(あんまりにものろま過ぎる)
 と、彼は敵の動きを見て、そんな感想すら抱いていた。
 最早、これは敵ではなくただの的だ。
 一方的な殺戮だ。
 頭の片隅にイメージが浮かぶその脇で、こちらも命がけで戦っているのだ、
殺さねば殺される。ならば、殺して何が悪い。
 そう主張する自分が居る。
 そんな葛藤を、心の奥底に秘めながら、それでも彼は、目の前のMSを、
戦艦を、しらみ潰しにしていった。
 そうしている内に、手強い敵が現れる。
 当たる筈の攻撃が当たらない。余裕で避けれる筈の攻撃が、うまくかわ
せない。
 自分と同種の人間が乗っているMSの様だ。もしかすると、自分の良く
知るあのエースか?とも思ったが、それにしては『強すぎる』。
 いや、もし、仮にそうであったとしても――。
 少年は、機体のカメラを動かして、暗黒の中にそびえる巨大な岩の塊、
修羅の渦の中心の要塞をねめつけた。
「本当の敵は、あの中にいる……シャアじゃ、ないっ!」
 そう独白して、少年――アムロ・レイは白い機体をア・バオア・クー
へと突進させていった。


「――!あれですぅ!見つけましたぁぁっ!……ガンダム!このスキ
ウレ、そしてマ・クベ様のギャンの魂を受け継いだ機体!ガルバルディα
で!ウラガナが仇を取りますぅっ!!」


 宇宙空間の混戦の中の事である。シャアらしきMSを振り切る事はそう
困難な事ではなかった。
 だがしかし、もしもあの中にいる者がシャアであったなら必ずまた自分
の前に現れるのだろう、とアムロは判っていた。シャアというパイロット
は、そういう男だ。彼が自分の様に目覚めているなら、なおの事だろう。
 と。
「ッ!?」
 異様な感覚が押し寄せてくるのを、アムロは察知した。強烈な憎悪と怒
りが、はっきりと具現して剣のようにこちらを斬り伏せんと向かってくる。
「シャアか……こちらを見つけたな!?」
 しかし、光芒の輝きから現れたのは、先ほどの異形のMSではなかった。
 何か浮き舟のような物に乗ったMSだ。
 そのMSも、この戦いで敵が投入してきた新型MSに似た機体であったが
微妙に違う。
 ヴァッ
 突如、その浮き舟に備え付けられた砲台から、巨大な光が溢れた。戦艦の
主砲をも上回るメガ粒子砲のようだ。
「あれに当たるわけにはっ」
 呟くものの、敵は正確そのものの狙いで連発してくる。
 いや、というより、こちらの動きを予測しているのか。またしてもニュー
タイプ。アムロは歯をかみ合わせた。
「――それなら!」
 アムロはビーム・ライフルで敵を狙い撃った。動きの予測はこちらも可能
だ。そして、敵の動きがどうにも素人くさいのがアムロにも伝わってきた。
 敵は、あっさりと浮き舟を切り離してこちらへ向かって来る。
 その勢いにアムロは目を見開いた。
 まるで、自分を倒した後の事など何も考えていないかのようだ。
 いや、本当にこのパイロットは、自分さえ倒せれば良いと思っている!?
 ニュータイプとしてのアムロの知覚は、相手の感情をはっきりと感じ取っ
た。相手もニュータイプ、という事もあったのかも知れない。
 怒りと、憎しみと、そして、悲哀。それがMSの周りを覆うように噴出し
ていた。怒りと憎しみ、それはわかる。だが悲しみとは一体なんなのか。
 そんな事を思う間も無く、アムロは敵MSに向かって、ビームライフルを
発射、発射、発射。
 一撃、二撃目はかわされたが、それは囮だ。
 三撃目が、MSの左肩に突き刺さり、腕ごともぎ取った。
 しかし、敵MSは怯むどころか、更に加速してきた。そして右手に持った
ビームライフルを、アムロ目掛けて発射発射発射発射発射発射発射発射発射
発射発射発射。
「こ、こいつぅっ!?」
 全てかわせる――筈であったが、その内の一発が、もう片手のハイパー・
バズーカを撃ち抜いた。咄嗟に手を放して被爆を避ける。
 片腕になったMSは、一気に撃ち切ったビームライフルを放って、ビーム・
サーベルを抜いた。
 間合いはもう左程ない。
 アムロも応えるように、背からサーベルを手にして、展開する。
 敵MSの長大で太いビーム・サーベルが、ガンダムへと突き込まれた。
 しかし。
 アムロはそれすらも読み切っていた。
 紙一重。まさにその言葉に相応しい動きで超高熱の刃を掻い潜ると、ガン
ダムのビーム・サーベルは敵MSの両足の付け根辺りを綺麗に溶断して斬り
裂いたのだ。
 火花を散らして、MSは慣性のままに回転しながら光芒の中へと消えてい
った。
 アムロはそのMSの最後を見とる間も無く、今度こそ確実に自分へと向け
られた憶えのある殺気に目を向けた。
 ――シャアが来る。
 今の戦闘で、だいぶビームを使ってしまったが……。
「やるしか、ないのか!」
 アムロはサーベルをしまい込み、シールドをその手に持つと、シャアの乗
るMSへ立ち向かった。
 無謀にも、ザクが目の前に立ちはだかる。
「何故出てくる!」
 アムロは、舌打ちして、引き金を引いていた。


 ウラガナは宇宙を漂っていた。
 不思議な事に、とてもそこは居心地が良かった。
 しかし、正確にはここが宇宙空間などではない事は判っていた。
 何せ、自分は生身なのだ。何故か、いつもの士官服だ。
 それに、暖かい場所であった。
 ――ここが死後の世界なのでしょうかぁ?
 そんな事を考えるが、ピンと来ない。軍人として、人を殺してきた自分は
やはり天国には行けないだろうか、と考える。
 ――でも、地獄にしては暖かいところですねぇ。
 と。
 遠くで誰かがこちらを見ているのが判った。
 彼女の良く知る男であった。
 ああ、彼に謝らなくては。
 ――マ・クベ様ぁ、申し訳ありませぇん……。ウラガナは、マ・クベ
様の仇は取れませんでしたぁ。
 いつものように、怒鳴られるかと彼女は思った。
 だが、マ・クベは穏やかな面持ちで、仕方なさそうに笑った。
 お前にしては、なかなか上出来だよ。
 ――本当、ですかぁ?
 よく頑張ったな。
 マ・クベはそう言った。
 そして、ウラガナは。


 涙が、玉になって、宙に浮いていた。
 目を覚ましたウラガナは、自分がまだ生きている事を知る。
 そして、その理由も。
 統合整備計画――ジオン軍MS全体の整備向上をはかる計画の元に作ら
れたMSにはパイロットのサイバイバビリティを優先した脱出機能が付いて
いるのだ。この機体は、その規格に合わせて作られていたのであろう。
 その計画を立案した男の名前は。
「マ・クベ様ぁっ……」
 ウラガナは、己の肩を抱いて涙を散らせた。
 仇を討つ事もかなわなかった自分を、また助けてくれた想い人のために、
ウラガナは泣いた。泣き続けた。涙の雫は眼鏡に張りついて濡らしていった。
 何より、彼女に涙を流させたのは、マ・クベが彼女へ言った一言だった。
 ――頑張ったな。
 幻影でも構わない。
 彼女の望みは、彼のその一言、ただそれだけであったのだ。
 戦闘宙域から遠く飛ばされたカプセルの中で、ウラガナは泣いた。
 いつまでも。
 いつまでも。
 ウラガナは、宇宙【そら】の中で、泣き続けた。



 ウラガナ、がんばる!   FIN



・あとがき
某掲示板に貼り付けた作品。
なるたけ史実を変えず、どこまでやれるかなというのが目標でした。
…はずでした。



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