ウラガナがんばる!  その4「ウラガナ、押し倒す」の巻



 オデッサ・デイ。
 U.C.0079年十一月七日より、ヨーロッパ方面において展開された地球連邦
軍の一大反抗作戦の総称である。この戦いの総指揮を連邦軍はかの名将レビ
ル将軍が受け持つという。それだけで、この作戦が並々ならぬものであると
いうことをジオン軍を率いるマ・クベ大佐も感じ取っていた。
 一方、この作戦前に起こったもう一つの戦いがある――ジオンのエー
ス部隊《黒い三連星》と連邦の新兵器部隊ホワイトベース、《木馬》の激突
がそれだ。誰もが、味方である連邦軍の上層部もが木馬危うしと見たこの戦
いであったが勝利を収めたのは、木馬、ホワイトベース側であった。《黒い
三連星》は、激戦の結果としてマッシュ中尉を失い、退く事となったのであ
った。
 そしてオデッサの戦いも佳境に入る頃、今や二連星となった《黒い三連星》
隊が再び出撃しようとしていた。
「マッシュ……お前の死は無駄にはしない」
 ドムのコックピットでガイア大尉は呟いた。通信モニター向こうのオルテ
ガ中尉も、表情を硬くしている。
 マッシュは昔から組んでいたガイアとオルテガと違って、最後に仲間にな
った男であった。彼が加わって初めて《黒い三連星》が誕生したのである。
 やや寡黙なこの男をガイアとオルテガは、仲間以上の――まるで兄弟の
ように感じていた。どんな過酷な戦場でもこの男がいたから安心して戦えたのだ。
 マッシュを失った悲しみを、二人はけして忘れはしない。それを奪った木
馬への怒りも。
 と、ガイアのドムが360mmバズーカの巨大な筒先を、夜空に向かって上げた。
『何をするんだ?』
 オルテガが尋ねると、ガイアは笑う。
「あいつに線香をあげてやろうと思ってな」
 なるほどな、とオルテガも頷いた。二人の間にそれ以上の言葉は必要なか
った。

                  *

 マ・クベ司令は不機嫌だった。
 当然といえばそうであろう。連邦軍の圧倒的物量、レビル将軍の指揮。あ
らかじめ前もって立てられていたこの大掛かりな攻勢の前に、ジオン側は後
退を余儀無くさせられていた。
 回線から来る報告は全て苦戦、苦戦、苦戦の一言のみ。プライドの高いマ・
クベにとって、屈辱の極みであったろう。
「もうよい!」
 マ・クベはうんざりしたようにモニターに吐き捨てた。
「とにかく、これ以上の敵の侵攻を許すなッ」
 そう吐き捨てて画像を切る。
 まさか連邦軍がこれほどの力を持っていようとは。さんざ敵の無能ぶりを
見てきたマ・クベにとって、猛将レビルの采配はおよそ初めて目にする奮闘
であったのだ。
「ウラガナ!」
「はっ、はいぃ!」
 苛立つマ・クベの叫びに、副官のウラガナ中尉はびくり、とその身を強張
らせた。
「《黒い三連星》はどうした!?」
「え、えぇとですねぇ、死んだマッシュ中尉の弔いとかでぇ……」
 びくびくと言う黒斑眼鏡の少女の言葉を聞くなり、マ・クベは画像を繋げ
た。
 二機のドムが、天空に向けてバズーカを撃ち放っている姿が司令室のモニ
ターに映される。バズーカの硝煙が、まるで線香のように、オデッサの風に
流されていった。
(ガイア大尉、オルテガ中尉……)
 その姿から滲み出る哀しみに、ウラガナは胸を締め付けられるような思い
で小さな拳を握る。あの豪放磊落な二人が、コックピットの中でどのような
顔をしているのだろう。そう考えるだけで辛かった。
「何をやっておるかっ!!」
 だがマ・クベが回線を開いて彼らを焚きつけるように怒鳴ると、びくっ、
とウラガナは肩を震わせる。
「貴公等、既に戦争は始まっておるのだぞ!」
 だが、モニター向こうのガイア大尉は、そんなマ・クベの恫喝など全く意
に介せずにこちらを見た。
『あぁ、判っておるわ。マッシュの仇はこの手で必ず取ってみせる』
「敵討ちではない!これは作戦行動だっ!」
 ヒステリックに叫ぶマ・クベ。通信が切れると、彼は、らしからぬ事に、
その手袋に包まれた拳を机に叩き付けた。
「キシリア様の推薦があればこそ使ってやっているというのに……どいつ
もこいつも……!」
 ウラガナはこんな時にオロオロとしているだけで何もしてやれぬ自分がも
どかしかった。大切な人間の力になってやれぬ己の無力さが、ただただ憎く、
口惜しい。
 すると、マ・クベが檄を飛ばす。
「ウラガナ!」
「は、はいぃっ」
「エルラン中将に直ちに連絡を取り、これ以上の侵攻を止めさせよ。即刻行
動を起こし連邦を裏切れとな!」
「はいぃ!」
 と、マ・クベは言ってから、ようやくいつもの落ち着きを取り戻す。
 そう、このような場合のためにスパイを潜入させていたのではないか。戦
争とは何も戦術のみではない。むしろ、戦場以外の場所で行われる策謀――
―戦略によってその趨勢は決まるのだ。東洋の“孫子”に載っているように。
 ニヤリとマ・クベは口端を吊り上げた。そして、己の副官に更なる指令を
かける。
「ここも安全ではなくなったな。ダブデに司令部を移すぞ。例の物を積み込
むのを忘れぬよう、兵には言っておけ」
「?れ、例の物、ですかぁ〜」
「そう言えばよい」
「りょ、了解しましたぁ」
 返事をして部屋を出て行こうとする彼女に、マ・クベは続ける。
「向こうに移った時、茶の用意をしておくのだぞ」
「ふぇ?……あっ!……は、はぁいぃ!マ・クベ様ぁっ」
 何故かひどく嬉しそうに返事をするウラガナに、マ・クベは眉をひそめる
のであった。


 だが戦局は思い通りには運ばなかった。
 エルラン中将の軍に変更が無く、侵攻する有様は彼が裏切ったか――も
しくは連邦に彼のスパイ容疑を感づかれたかのどちらかであろうと知れた。
おそらくは後者であろう。
 また《黒い三連星》からの通信も途絶え、音沙汰不通となっていた。
 すでに勝敗は決した。
 戦術の素人であるウラガナにも、それは確実に伝わっていた。
「マ、マ・クベ様ぁ……もう、もうここもぉ……」
 今にも泣き出しそうな顔で訴えかけるウラガナ。だが、対するマ・クベの
表情はあくまで強気でこう言ってのけた。
「レビルに通信を繋げ」
「えぇっ?は、はいぃ」
 一体何をするつもりなのか。よもや、降伏などするつもりでは有るまい。
ウラガナの知るマ・クベは、その様な事をする男ではない。では……?
 そして通信マイクを握ったマ・クベが敵将レビルに向けた言葉は衝撃的
な物であった。これ以上の侵攻を止めねば、水素爆弾を使用する、という
のだ。
「十分間の猶予を与える。その間に全ての部隊が後退せねば核弾頭ミサイル
を……」
 と、そこまでマ・クベが言った所で。悲鳴に似た声が通信に混じった。
「マ、マ・クベ様ぁ〜っ!か、核兵器は南極条約で禁止されているですよぉ
ぉ〜!?そんなの駄目ですぅ!キシリア様に怒られ……むぎゅ?」
「か、核弾頭ミサイルを発射するぞっ!いいな!これは脅しではない!!」
 暴れるウラガナの口元を手で抑えたままで、マ・クベは早口で言い終える
と、通信を切った。
「馬鹿者っ!いきなり大声を出すな!」
「だってだってぇぇ!核はまずいですよぉ!3×3EYES風に言うと『ヤ、
ヤクい!』ですよぉ!」
 懐かしい言葉を交えて抗議するウラガナ。だがマ・クベは動じない。
「これは戦争なのだよ。戦争にルールなど無い……判るか?」
「そ、そうなんですかぁ〜?」
「そういうものだ」
 釈然とせぬウラガナに、マ・クベは一息ついて、椅子に座る。
 と。
『連邦軍が一斉に侵攻を再開しました!』
 がんっ!
 間を置かずに入った報告に、机に頭から突っ伏すマ・クベ。
「ええい、見ろっ!貴様が妙な声を入れるから見くびられたではないかっ!」
「す、すすすす、すみませんっ!すみませぇぇんんん!」
 目を三角にするマ・クベに、ウラガナは頭を抱えて計器類の下に逃げ込む。
「で、でもぉ、本当にミサイルを撃ったり……しませんよねぇ?」
 と、まるで小動物か何かのように、棚の下からマ・クベの顔色を伺うウラ
ガナに、彼は「甘いな」と司令室の一角に足を向けた。
「これは駆け引きなのだよ、ウラガナ。連邦は我々の要求を無視したのだ」
 言いつつ、ひとつのキイを鍵穴に差し込み、捻る。
 ――核弾頭ミサイルスイッチの解除キイであった。
「彼らは、その報いを受けるのだよ……」
 そしてマ・クベは目の前にあるボタンに、その細い指を向けた。冷徹なそ
の瞳に何を思うのか。
 くわっ
 その双眸を見開き、マ・クベは高らかに宣言する。
「ミサイル発……!」
「や、やっぱり駄目ですぅぅっっ!!」
 その刹那、後ろからウラガナが飛びつくようにマ・クベに止めにかかった。
「……しゃぁ、あっ!?」
 いきなりの全力タックルを受けたマ・クベは、勢い余って計器類に倒れこ
んだ。ウラガナも涙目だったためか、マ・クベともつれ合ったまま計器類に
乗り出してしまう。
「放さんかっ!?」
 ウラガナをどうにか振り払うと、マ・クベは強引にスイッチを押した。
 すぐさま、陸船艇ダブデのハッチが開き――あたかも一本の巨大な矢の
様に――核ミサイルが煙の尾を引いて、夜空へ飛び上がっていった。
「フフフ、これでレビルも一巻の終わりだな」
 ほくそ笑むマ・クベだったが、ふと、コンソール上に映る画面を見て、青
ざめた。ミサイルの着弾点が、いつのまにやら――我が軍の中心部に変更
されているではないか。
 詰まる所、このダブデの真上である。
 おそらく、先程もつれ合った際に、計器類をいじってしまったに違いない。
「ウっ……、ウ、ウ、ウ……」
 マ・クベは痙攣する拳を固めながら、目を回してふらふらと立ち上がる副
官を見下ろし。
 ありったけの声を張り上げた。
「ウラガナあぁぁぁぁ――――っっっ!!!」
「え、えええっ!な、なんですかあぁぁぁっ!?きゃあっ!す、すみません!
マ・クベ様!すみませぇぇぇぇぇ――――んんん!?」
 二人の声は、オデッサの爆音響く星空の中に消えていった。


「連邦が勘違いしてくれて、よかったですねぇ〜」
「やかましいわっ!」
 大気圏外へと向かう、戦艦ザンジバルの中で、にこやかに笑うウラガナにマ・
クベは怒鳴る。
 結局核弾頭は、着弾点の変更に気付かなかった連邦軍が必死で撃墜したよう
であった。
 慌てて戦場を離脱したマ・クベだが、結局の所、あの水爆が予定通り連邦に
向けられていたとしても勝敗は動かなかったということである。むしろ早めに
脱出できた分、正解であったかもしれない。
「でも、地上に残された人達が心配ですねぇ」
 窓から、遠ざかる大地を見ながらウラガナは呟く。
「奴等にも、このザンジバルの姿は見えておろう。早々に撤退するはずだよ。
……それと、あれは指示通りにしたであろうな?ウラガナ」
「はいぃ。残りの核はユーリ・ケラーネ少将の部隊に渡すようにしておきま
したぁ」
「うむ。窮地に貧した少将があれを使えば、核を用いた責任は私でなく奴に
向ける事ができるな」
「はぁ〜」
 よくもまあ、あの状況でそこまで計算できたものだ。
「そして、戦いはこの一戦で終わりではないのだよ……考えても見ろ、我
々が送り届けた鉱物資源の量を。ジオンは後十年は戦える。フッフッフ」
 言い含めて、マ・クベは机の上の壺を弾いた。
「そ、そんなにですかぁ〜?十年って、中学生が大学卒業しちゃいますよぉ?
VがSEEDになっちゃうくらいですよぉ?」
「後半はよく判らぬが……我々が送りつけた物資は、それだけの物だとい
うことだよ」
 壺を磨きながら、マ・クベは誇るように言う。地上での敗北が何だという
のか。要は最後に勝てば良いのだ。
「わぁ!さすがはマ・クベ様ですぅ〜」
 目を輝かせるウラガナ。
「うむ。では、先程キシリア様から送られてきたデータに目を通しておくか」
 悦に入りながら、マ・クベが言う。ウラガナは「はぁい!」と元気良く返
事をすると、データをモニターに映した。
「これが新型MAビグ・ザムですぅ!Iフィールド機能を搭載した初の機動
兵器でぇ、ムサイ二隻分のコストだそうですよぉ。ジャブロー攻略のため、
ガンガン量産するってプランがあるみたいですねぇ」
 ピタッ
 マ・クベの壺を磨く手が止まった。
「次に、この空母ドロス級!なんとなんと、MSが百機以上も入っちゃう超
大型空母らしいですよぉ!これも結果如何でバシバシ建造する予定らしいで
すぅ!さすが我が軍の技術力!まさに驚異の一言ですねぇ〜」
 プルプルと手を震わせるマ・クベの様子に気付かず、満開の笑みを浮かべ、
ウラガナは頬を赤らめる。
「でもでも!もっと凄いのは、十年も戦える資源を確保したマ・クベ様です
よぉ〜。さすがですぅ〜」
「……十年?何の事だ」
「ふぇ?」
 目をしばたたかせるウラガナ。マ・クベはあらぬ方向に顔を向けながら続
けた。
「私は後五年は戦えると言ったのだ」
「えっ、で、でもぉ、さっき……」
「――何か言ったか!?」
 ギロリ。有無を言わさぬひと睨みに、ウラガナは慌てて首を振った。
「い、いえぇ!なんでもありませぇん!」
「うむ」
 満足そうに頷き、マ・クベは白磁の壺を弾く。美しい音色が、司令室に鳴
り響いた。



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