ウラガナ、がんばる!その2「ウラガナ、パシる」の巻



 ガルマ・ザビ大佐の仇討ち部隊、歴戦の猛者ランバ・ラル隊。彼らをもって
しても、連邦軍の新型戦艦《木馬》ことホワイト・ベースの部隊を相手取る事は
骨のようであった。新鋭機グフをはじめとしたかなりのMS、そしてパイロット
達を失ったという。
「と、いう訳でぇ、ランバ・ラル大尉からMSの要請が入りましたですぅ」
 ウラガナの報告に、マ・クベは考え込むように一人ごちた。
「うむ……キシリア様がジオンを支配する際、この鉱山は役に立つ。実態は
ギレン総帥にも知らせる訳にはいかん」
 ジオン軍はけして一枚岩ではない。特に、総帥ギレン・ザビと突撃機動軍司令官
キシリア・ザビ少将との確執は一部の高官には有名な話であった。そしてキシリア
に心酔しているマ・クベにとって、宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将配下である
ランバ・ラルもまた、疎ましい存在であったのだ。
「奴らはここを知りすぎた。ランバ・ラル、どうやら時期を逸したようだな……。
MSの補給要請、だと?ウラガナ、もちろん次の手は判っているであろうな」
 ぼやかすようなマ・クベの物言いに「はぁい」と頷くウラガナ。
「ちゃあんと最新鋭MSドムをファット・アンクルに搭載済みですぅ!ラル大尉の
カラーにも塗装完了してあるですよぅ」
 どがたっ!
 にぱり、と笑顔で堂々と言われ、マ・クベは椅子から転がりかけた。
「これで今度こそ木馬も一網打尽です〜!キシリア様もお喜びになられますですよ」
「違うっ!」
 ガッツポーズなど見せているウラガナに、マ・クベは怒鳴った。
「ふぇ?違うんですかぁ?えっと、でもでも、ゲルググは設定上最低でも十一月
中旬過ぎないと出せませんですよぉ」
「何を訳の判らん事を言っているのだ」
「あ、それともマ・クベ様のグフを回されるおつもりなんですかぁ?どうせ乗られ
ませんしねぇ。それでも、あの純金製のヒート・ロッド解体させちゃいましたから
弱くなってますよぉ」
「それも違――って、待たんか!そんな事をさせていたのかっ!?」
「だってもったいないですよぉ。資源は有効に使わなきゃいけないんですからぁ」
「その件は後でゆっくりと聞くぞ……。いいか、私の言いたい事は、ラル隊の
要請を握り潰せということだ」
「え、ええ!?」
 なんとか平静を取り戻して告げるマ・クベに、彼女はすっとんきょうな声を
あげた。
「MSは送らないんですかぁ?」
「そういう事になるな」
「ザクでもですかぁ?」
「一機たりとも、だ」
「じゃあ、ザクタンクならどうですかぁ?」
「……。いや、認めん」
「あっ、今マ・クベ様、ほんのちょぴり『ザクタンクくらいならいいかも』って
思ったですねぇ」
「やかましい!」
 マ・クベはたまりかねて机を叩く。びく、とウラガナは仰け反った。
「奴にはここで散ってもらう必要があるのだよ。ドズル旗下の者に、私の鉱山を
知られたのはまずい……つまりはそういうことだ」
 机を叩いた拍子で倒れかけた古伊万里の皿を慌ててキャッチした姿勢のままで、
マ・クベは冷徹に言ってのけた。
「はいぃ、マ・クベ様ぁ。で、でもぉ、ラル大尉にはなんて言えばいいんです
かぁ?」
 おずおずと涙目で聞く副官に、マ・クベは笑った。
「心配無い。奴は生まれついての職業軍人だ。そんな事は考えはせんよ」
「は、はいぃ。では、ウラガナ、行って参りますですぅ!」
 不安は拭いきれなかったが、マ・クベが言うなら、きっとそうなのだろう。自分
を言い聞かせるとウラガナは、しゅたっ、と敬礼して司令室を去ろうとした。
「待て、ウラガナ」
「はぁいぃ?」
 振り向くウラガナに、マ・クベは行った。
「ラル隊に行く時は、その猫耳と尻尾は外していくのだぞ」
「あ、はぁい」
 マ・クベ気に入りの備前焼の湯呑みを割った為に課せられていた罰則を思い
出すと、ウラガナは再び敬礼するのだった。

                     *

「で、では……ドムは届かんというのかっ?」
「はいぃ。残念でありますぅ」
 報告を受けたランバ・ラル大尉は、さすがに動揺の色を隠せぬようであった。
ウラガナも音に聞く《青い巨星》に対峙した事と、その相手に虚言を弄することに
対する圧力に、かすかに足が震えている。
 ジオン軍中に知られるトップ・エース、ランバ・ラル。そこにいるだけで全身
から滲み出る風格と闘志。まさに、軍人という言葉を擬人化した様な男であった。
この男を前に、本当にこのような見え透いたともとれる言い分が通じるのだろう
か?見れば、配下の者達も、いかにも修羅場を潜り抜けてきたといった風体の強面
ばかりである。
「補給船から救援信号をキャッチしましたが間に合わずぅ……中央アジアに入る
前に撃破されしまいましてぇ、ドムは……」
 だが、彼女のその怯えた態度がかえって迫真の演技に変えていたのかも知れ
ない。ランバ・ラル大尉はひとつ頷くと、こう言ってのけた。
「いや……このランバ・ラル、たとえ素手でも任務はやり遂げて見せるとマ・クベ
司令にお伝えください」
「えっ?」
 彼の言葉に、ウラガナは目を見開いた。
「す、素手でですかぁ……?」
「そうお伝えくだされば宜しい」
 どうという事もなさげに、ランバ・ラルは真摯な目でウラガナを見る。
「貴方はお若いので存ぜぬようだが、この私は元々ゲリラ屋です。MSが届かぬ
なら、白兵戦で直接、木馬を仕留めるというだけです」
「そ、そうだったんですかぁ」
 目をしばたたかせて、ウラガナは彼の後ろの兵達を見た。幾人かの士官達は
あっけにとられる彼女に、自信溢れる態度を顕にしている。
(この人達なら、木馬を乗っ取れるかも)
 彼等を見ると、ウラガナにも実際そう思えてきた。
「では」
 と敬礼をしかけるランバ・ラルに、ウラガナは何かに気づいて「待ってくだ
さぁい」と言った。
「?まだ、何か」
「あ、あのぉ、失礼かもしれないんですけどぉ……」と、ウラガナは懐から手帳を
取り出した。「サ、サインお願いできませんですかぁ?」
「……サイン?」
「は、はいぃ。高名なラル大尉とお会いできた記念に、というかですねぇ……」
 怪訝そうな顔を見せるランバ・ラルではあったが、ふと、後ろに控えていた私服
の女性が、
「あなた、別にしてあげてもよろしいのではなくて?」
 そう促した。
「ん?そう思うか、ハモン」
 察するに、ランバ・ラルの愛人か何かなのだろう。だが、彼女にはその辺りの
情婦では決して纏えぬ気品があった。
「あなた、お名前は?」
 匂い立つ様な微笑を向けられ、ウラガナは慌てて「ウ、ウラガナ少尉であり
ますぅ!」と答える。ハモン、と呼ばれた女性は「そう」とウラガナの手から
手帳を取って、ランバ・ラルに手渡した。
「司令によろしく伝えてくださいましね」
 彼女にそう言われ。何故かウラガナは、顔が熱くなるのを感じた。


「ご苦労でした」
 手帳を渡すと、ランバ・ラルはそう言って敬礼する。
「失礼致しますぅ」
 返礼して、ウラガナもドップに乗り込む。操縦士に言って発進させると、見る間に
ランバ・ラル隊の陸上戦艦ギャロップは小さくなっていった。
 手帳を開いて、その力強い筆跡を見つめているウラガナは、ふと思った。
 今までにどんな相手も粉砕してきた連邦軍の新型MSが搭載されているという、
ホワイトベース――木馬に対してゲリラを仕掛け、果たしてそれがどれ程の確立で
成功するものだろうか、と。
(戦【いくさ】馬鹿っていうのは、ああいう男の人の事を言うんですねぇ……)
 ふと胸の中でそう浮かべて、ウラガナは手帳を閉じ、ポケットにしまい込んだ。
 そして、目元を袖で、一度だけ擦った。



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