ウラガナ、がんばる!  「ウラガナ、うかれる!」の巻



 チィィ――――ンンン――……
 指で弾くと、壺は部屋中に響き渡る、澄み渡った音色を奏でた。
 その音を満悦そうに聞き入っている男がいる。やや痩せ気味の面立ちに、流れる
ような長髪。パッと見では軍人とは思えない外見だ。だが、彼こそが現ジオン公国
地球方面軍の事実上の司令官であるマ・クベ大佐その人なのである。
 たかが大佐如きが何を、と思う人間も多いことだろう。だが、彼がジオン公国
最大の派閥、ザビ家の長女キシリア・ザビの懐刀的存在だと知れば、少なくとも
ジオン軍の内情を多少でも知る者は納得するだろう。そして、彼の今までの功績
――多大なる資源の確保を考慮に入れれば、その職にあっても何等不思議は無い
のだ。
「いい音色だろ?」
 マ・クベは誰に言うとも無く呟いた。と、
「はぁい!」
 司令室にいたもう一人の人物が、底抜けに明るい声で彼に答える。
 うら若い女性兵であった。年の頃はまだ十代半ばほどか。三つ編みに結い上げた
髪、黒斑の眼鏡。そこそこに整った顔立ちではあるが、これといって目を見張る
ほどでもない風貌。頬にあるそばかすが特徴的といえばそうなのか。その表情には
フワフワとした微笑がいつも絶えなかった。
 ウラガナ少尉。マ・クベ大佐とは別の意味で軍人とはかけ離れた風貌だ。
「よいものなんですかぁ?」
 尋ねるウラガナに、マ・クベはうなずいた。
「北宋、だな」
「はぁー」
 よく判らない(事実判っていない)面持ちで、返事をするウラガナ。
 ちなみに古代中国、北宋文化では主に青磁器が主流とされており今マ・クベ大佐
の前にあるような白磁の壺が製作された可能性はかなり低いのだが……敢えてここ
では言及しない事にする。
「で?なにかね?」
「はいぃ。おおせの通り、ランバ・ラル大尉には木馬の位置をお教えしておきまし
たですよぉ」
 舌足らずな声で報告をすると、マ・クベは頷いた。
「うむ。奴等が早めに木馬を片付けてくれれば、この辺りをうろつかれることも
なくなろう……」
 パチン、とマ・クベは指を弾いた。
「あ!は、はいぃ!」
 慌ててウラガナは、司令室の隅にあるティーセットに足を向けた。指を弾くのは
茶の合図だ。直接口で言えばいいのに、と思うが、口に出せば怒られそうなので
言わない。
「マ・クベ様ぁ〜。これもよいものなのですかぁ?」
 緑色の葉を見て、珍しげにウラガナは言った。
「玉露だな」
「はぁ〜」
 マ・クベ大佐は芸術品の収集家としても知られており、特に東洋の文化には
ひどく興味を持っているようであった。このグリーン・ティーもそんな趣味の
現われなのだろう。ウラガナはティー・ポットに葉を入れると、温めのお湯を少し
入れて、蓋をした。蒸らして味をよく出させるためだ。
「あっ、それとですねぇ、南部地域の連邦軍の動きが活発になっているみたいです
よぉ」
「何……連邦軍め、この鉱山を包囲し殲滅させるつもりだな?」
 マ・クベの双眸が薄められる。その鋭い魔物のようなまなざし、そこにこそ彼の
おそるるべき本性が現れる場所であった。マ・クベは不敵に笑うと、慎重にポット
に湯を注いでいるウラガナに言った。
「連邦軍内部に侵入させている諜報部員の数を増し、組織作りを強力にせよ」
「はぁい、かしこまりましたぁ!」
「レビルめ……作戦中に足元をすくわれ、吠え面をかかねばよいがな。フフフ」
 お茶請けの栗羊羹を齧りながら、肩を揺らすマ・クベ。そんな彼の背中をウラガナ
はうっとりと眺めていた。
(さすがは、さすがはマ・クベ様!いつもながら完璧な作戦です!このウラガナ感服
しました!どこまでもあなたに着いて行きます!そして、いつか、いつか、きっと
マ・クベ様と……キャア!やだ、私ってば!)
 そんな今時り○んのヒロインでもやらないような想像に入り浸りながら、頬に手を
当てて首をイヤイヤとしきりに振るウラガナ。と。
「何をしているのだ?はやく茶を持て」
「あっ、あっ!すみません!ただ今……」
 妙な行動をしている所を見られたウラガナは、顔を赤らめてトレイを持った。
「ま、待て!貴様は慌てると……」
「あっ、あっ――きゃあーっ!?」
 ガッシャァーン!
 何も無い場所で、ウラガナはものの見事に転倒した。熱さ満点の茶と高価な
陶器が、宙に舞ってマ・クベに向けて飛来した。
「ウ、ウラガナぁーっ!」
「す、すすすすす、すみませんっ!マ・クベ様、すみませぇんん!」
 マ・クベの怒声と、ウラガナの泣き声を聞いて。司令室の外に立っていた
警備兵は「またか」という顔をするのだった。



次を読む     


妄想工場へ戻る

動画 アダルト動画 ライブチャット